Exchange of Notesとは何か
Exchange of Notes、すなわち「交換公文」とは、一方の政府が一定の内容を記載した公文を相手国に送り、相手国が同内容に同意する公文を返すことによって、両国間の合意を形成する方式です。
「条約」という一つの文書に双方が署名する方法とは外見が異なりますが、国際法上の合意は文書の名称だけで決まるものではありません。
外務省も、国際的な合意は「条約」のほか、「協定」「議定書」「交換公文」「合意議事録」など様々な名称を用いることがあり、名称自体によって国際法上の性質が決まるわけではないことを説明しています。
したがって、交換公文を単なる外交上の手紙や説明資料と考えるのは適切ではありません。内容や形式によっては、それ自体が法的な国際約束を構成します。
「公文の交換」には二つの全く異なる場面がある
租税条約を読む際に特に混同しやすいのが、「外交上の公文の交換」という表現です。
一つは、租税条約を発効させるため、両国が「国内手続が完了しました」と通知し合うための外交上の公文の交換です。
例えば、多くの日本の租税条約では、国会承認等の国内手続が終了した後、その事実を外交上の公文によって相互に通知し、公文の交換後一定期間が経過すると条約が発効する仕組みになっています。
これは主として条約を発効させるための手続です。
これとは別に、「所得に対する租税に関する条約に関する交換公文」のような名称で、条約の具体的内容について両国政府が合意したExchange of Notesが存在する場合があります。
こちらは条約の内容・解釈・適用に関係する実体的な文書です。
したがって、この二つは同じ「公文の交換」という日本語が使われていても、意味が全く異なります。
Exchange of NotesとProtocolの違い
Protocolは、条約本文とともに署名されて条約の不可分の一部を構成したり、後から条約を正式に改正したりする文書として使われることが多くあります。
Exchange of Notesは、二通以上の外交文書を交換することによって合意を形成する形式です。
したがって両者の違いは、単純に「Protocolの方が法的効力が強く、Exchange of Notesは弱い」というものではありません。
重要なのは文書の名称ではなく、その文書について両国が何を合意し、どのような法的効果を持たせているかです。
個々の交換公文について、条約と一体として適用されるのか、特定事項について独立した国際約束を構成するのか、あるいは主として解釈・実施についての理解を確認するものなのかを、その文言から確認する必要があります。
日米租税条約は複数の関連文書が存在する興味深い例
日米租税条約は、条約本文以外の文書を確認する重要性が特に分かりやすい例です。
2003年の日米租税条約について、外務省は条約本文に加えて、「条約に関する交換公文」を正文として掲載しています。
さらに財務省の条約一覧では、日米条約について、2003年交換公文のほか、2004年の「交渉担当者間の了解事項」および「討議の記録」も別文書として掲載されています。2013年の改正議定書についても交換公文が存在します。
つまり、日米租税条約を厳密に検討する場合には、単にConventionだけではなく、Convention、Exchange of Notes、Amending Protocol、Agreed Note of Negotiators、Record of Discussionsといった複数の文書の性質と内容を確認することになります。
すべてを同じ法的レベルの文書として扱うという意味ではありませんが、「条約本文だけを読めば足りる」と考えるのは危険であることを示す好例です。
日英条約では交換公文が複数回行われている
日英租税条約にも、2006年の原条約に関連する交換公文が存在します。
その後、2013年にも交換公文があり、2013年に署名された改正議定書についても、2015年の交換公文が財務省の条約一覧に掲載されています。
つまり、Exchange of Notesは必ずしも条約署名時の一回だけで終わるものではなく、条約関係が継続する中で、特定事項について両国が追加的な合意・確認を行うために使われることがあります。
オランダについても2010年の交換公文に加えて2012年の交換公文、スイスについても複数の交換公文が存在しており、日本の条約実務では決して珍しい形式ではありません。
「Exchange of Notes」と「Competent Authority Agreement」も区別する
さらに、交換公文とは別に、租税条約に基づいて両国の「権限のある当局」が合意を行うCompetent Authority Agreement(権限ある当局間の合意)が存在する場合があります。
政府間の外交上のExchange of Notesと、財務省・国税当局等の権限ある当局間で行われる合意は、作られる法的根拠や機能が異なることがあります。
日本の財務省の条約一覧でも、例えばポルトガルについて「権限のある当局間の合意」が、Exchange of Notes等とは区別して掲載されています。
したがって、関連文書のタイトルだけで判断せず、誰と誰が、何を根拠として、何について合意した文書なのかを見ることが重要です。
実務ではどの文書まで確認すべきか
租税条約について重要な判断を行う場合、まず財務省の「我が国の租税条約等の一覧」で対象国を確認する方法が非常に有効です。
そこでは、原条約だけではなく、改正議定書、交換公文、合意議事録、権限ある当局間の合意、MLIの適用状況などが一覧化されています。
その上で、現在適用されている原条約とProtocolを確認し、Exchange of Notesその他の関連文書に対象論点についての特別な合意がないかを確認します。
特に条約の文言だけでは結論が明確でない案件や、透明体、年金、匿名組合、投資ファンド、PE、仲裁など各国固有の制度が関係する案件では、この確認が重要になります。
まとめ
Exchange of Notesは、単なる「参考資料」や外交上の連絡文書とは限りません。文書の内容や形式によっては、それ自体が法的な国際約束を形成し、租税条約の内容・適用を理解するために重要な意味を持ちます。
また、条約を発効させるための「外交上の公文の交換」と、「租税条約に関する交換公文」は別のものであることにも注意が必要です。
租税条約実務では、Treaty、Protocol、Exchange of Notes、Competent Authority Agreement、MLI等について、それぞれの文書の法的位置付けを確認しながら全体として読むことが重要です。
※Exchange of Notesの法的性質は個々の文書によって異なります。具体的案件では、その交換公文の文言、締結形式、条約との関係およびその後の改正等を確認する必要があります。
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