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外資・外国法人向けの日本インボイス制度対応

はじめに

近年、グローバル企業や外国法人の日本拠点が増加する中で、適格請求書等保存方式(インボイス制度)(以下「インボイス制度」)ならびに消費税(Japan Consumption Tax)対応は、国際税務の観点からも極めて重要なテーマである。特に「外資・外国法人が日本国内で取引を行う際の消費税・仕入税額控除・発行義務」などの実務面での影響は少なくない。本稿では、外国法人・外資系企業が日本インボイス制度に対応するために押さえておくべきポイントを整理する。


1. インボイス制度の概要

インボイス制度とは、日本の消費税において、売手が「適格請求書(Qualified Invoice)」を発行し、買手がその請求書を保有することを前提に仕入税額控除を受けられる仕組みをいう。国内では2023年10月1日から本格導入された。

外国法人・外資系企業が日本で事業を行う場合にも、この制度の影響を受ける。制度の主要ポイントを整理すると以下の通りである。

  • 適格請求書を発行する者(「適格請求書発行事業者」)として登録を行い、登録番号を取得しなければ、適格請求書を発行できない。
  • 買手が仕入税額控除を受けるためには、売手から適格請求書を受け取り、帳簿等に保存しておくことが必要となる。
  • 制度導入後、適格請求書を発行しない売手からの仕入れは、原則として仕入税額控除の対象とならない。
  • ただし、制度開始後一定期間は「過渡措置」として、非登録の売手からの仕入でも控除可能とする限定的な措置が設けられている(例:2023年10月1日~2026年9月30日は仕入税額控除80%)。 

このように、インボイス制度の導入により、取引構造・帳簿体系・取引先選定・システム対応が変化し、特に国際取引(外資系企業・外国法人間取引・日本国内拠点)を持つ法人にとっては「知っておくべき改正」である。


2. 外資・外国法人が日本で留意すべきポイント

外国法人や外資系企業が日本国内取引を行う際、インボイス制度という観点から特に注意すべき実務ポイントを整理する。

2.1 登録義務と発行義務

外国法人が日本国内で売上を計上したり、日本の取引先に対して請求書を発行する場合、登録を検討する必要がある。海外法人が日本国内に「課税事業者」として消費税を納付すべきか、という観点とは別に、適格請求書発行事業者として登録を行えば、取引先(買手)からの信頼確保や仕入税額控除の面で有利である。

ただし、登録すれば自動的に消費税課税事業者になるというわけではない点に留意が必要である。例えば免税事業者であったとしても登録すると消費税の申告義務が発生する可能性がある。

2.2 仕入税額控除の制限・過渡措置

買手側の立場からは、非登録売手からの仕入れが控除対象外となるという点が深刻である。特に外資・外国法人が日本の課税企業と取引を行う場合、「自社が適格請求書を発行できない売手」となることで、買手が進項税額を控除できず、取引関係に影響を及ぼす可能性がある。

過渡措置として、2023年10月1日~2026年9月30日は売手が登録前でも仕入税額の80%を控除可能、2026年10月1日~2029年9月30日は50%控除可能とされているが、2029年10月1日以降は完全に適格請求書要件が必須となる。

また、外資・外国法人の場合、簡易課税制度の適用除外など、免税事業者の特例扱いが変わっている点もある。たとえば、2024年10月1日以降開始の課税期間からは「国外企業者」は簡易課税制度が適用されない旨も記載されている。

2.3 取引構造・契約・帳簿・システム対応の影響

インボイス制度の導入は単なる請求書フォーマットの変更にとどまらず、取引フロー、請求書発行・受領、帳簿保存、会計・税務システムの改修を必要とする。 

外資・外国法人が日本で事業を展開するにあたっては、グループ本社のグローバルERPや取引先国際連結体制の中で、日本特有のインボイス対応を見落とさないことが重要である。

具体的には以下の点を検討すべきである:

  • 適格請求書発行事業者登録番号(登記番号)を請求書に記載できる体制の整備
  • 日本国内での売上・取引があるかどうかの把握、課税事業者判定および消費税申告義務の確認
  • 取引相手(買手・売手)が登録者か否かの確認プロセスの構築
  • 請求書・納品書・契約書・決済書類等が適格請求書として要件を満たしているか(記載事項の確認)
  • 会計システム・請求書発行システム・データ保存システム(電子取引・電子帳簿)を制度対応可能なものへ改修
  • グループ会社・関連会社を含めた取引構造・仕入税額控除実務への影響分析/取引先への説明材料準備

3. 外資・外国法人が直面しやすいリスクと対応策

インボイス制度に関連して、外資・外国法人が特に注意すべきリスクとそれに対する対応策を整理する。

3.1 仕入税額控除が受けられないリスク

買手(日本企業や日本拠点)が、登録事業者でない売手(例えば外国法人など)からの請求を受けた場合、仕入税額控除が受けられず、取引条件が悪化する可能性がある。これにより価格競争力や取引継続性に影響を及ぼす恐れがある。

対応策としては、売手自身が適格請求書発行事業者登録を行ったり、買手側に登録事業者との取引を促す説明を行うことが有効である。

3.2 登録を行ったことによる課税事業者化リスク

適格請求書発行事業者に登録すると、免税事業者であっても消費税の申告義務が発生しうる。この点を軽視すると、消費税の未申告リスクがある。特に外国法人が日本国内で課税売上を計上する場合、この点を確認しておく必要がある。

対応策としては、登録前に自社の取引実態・売上規模・免税事業者該当性・課税期間を税務顧問とともに精査することが重要である。

3.3 常設機関(Permanent Establishment, PE)や課税義務の判定との交錯リスク

インボイス制度は消費税(間接税)に関する制度であるが、日本国内での売手登録・請求書発行などを通じて、外国法人の日本における固定的な拠点の有無という観点から「常設機関(PE)」に関わる所得税・法人税のリスクを誘発する可能性がある。例えば、外国法人が日本に拠点を設けて請求書発行・販売等を行っていれば、これがPE判定において影響を及ぼすケースもある。 

対応策として、請求書発行・在庫保管・販売活動の実態を整理し、PE該当性の有無を税務顧問と検討するとともに、インボイス登録対応がこの観点からどのような意味を持つかを把握しておく必要がある。

3.4 取引構造変更・発売先への説明負担

外資・外国法人の場合、日本の取引先が登録事業者であるか否か、また取引契約にインボイス発行義務の有無をどう位置付けるかを巡り、契約書の改訂・価格交渉・取引条件変更が発生しやすい。

対応策として、既存の取引先に対してインボイス制度導入に伴う請求書発行・控除可否の影響を説明し、所定のプロセスを構築しておくことが重要である。


4. まとめ

日本におけるインボイス制度の導入は、単なる請求書形式の変更という枠を超えて、外国法人・外資系企業にとっては取引構造・税務計算・グループ対応・システム整備といった多面対応を要求するものである。

外資・外国法人としては、次の点を特に意識すべきである:

  • 適格請求書発行事業者としての登録有無を早期に検討する
  • 取引先(日本国内)との関係を見直し、登録事業者か否かを取引条件の観点から確認する
  • 会計・請求・帳簿の体制を、日本の制度要件に沿って整備する
  • 制度の転換期(過渡措置終了時期)を見据え、2026年~2029年にかけての影響を想定した対応を行う
  • インボイス制度対応が、所得税・法人税上の常設機関(PE)リスクや税務調査リスクといった他の国際税務リスクとも交錯しうることを認識する

インボイス制度は日本国内のみならず、国際税務上のリスク管理にも直結する。

早期対応・体制整備・税務顧問との連携が、外資・外国法人の日本事業を安定的に運営するための鍵となる。

Liying Huang 2025年11月6日
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