はじめに
日本に居住している個人が海外へ転出する場合、税務上は「出国」という重要なイベントが発生します。出国に伴い、日本の所得税制度では、その年の途中で居住者でなくなることを前提として、所得の清算を行うための特別な申告制度が設けられています。これがいわゆる「出国時申告」、正式には「準確定申告」と呼ばれる手続です。
出国時申告は、日本人・外国人を問わず、日本の居住者として課税されていた個人が対象となります。特に、駐在員の帰任、外国人従業員の本国帰国、海外移住、長期赴任など、国際的な人の移動が日常化する中で、出国時申告の重要性は年々高まっています。本稿では、出国時申告の基本的な仕組みから、納税管理人制度、出国後の確定申告との関係、実務上の注意点までを体系的に解説します。
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1. 出国時申告(準確定申告)とは何か
出国時申告とは、居住者が年の途中で出国し、日本に住所または居所を有しなくなる場合に、その年の1月1日から出国日までに発生した所得について行う申告です。所得税法では、原則として居住者は暦年単位で課税されますが、出国によって非居住者となる場合、そのまま年末まで待つことができないため、途中で所得を区切って清算する制度が設けられています。
この申告は「準確定申告」と呼ばれ、通常の確定申告とは異なり、申告期限が「出国の日まで」とされている点が大きな特徴です。つまり、原則として、出国前に申告と納税を完了させる必要があります。これは、出国後に日本国内に連絡先や滞在実態がなくなることを想定し、税務上の確実な徴収を図るための制度です。
2. 出国時申告の期限と納税管理人制度
出国時申告において最も重要なポイントの一つが、申告期限と納税管理人制度です。原則として、出国する日までに申告書の提出と税額の納付を完了させなければなりません。しかし、実務上、出国直前は引越しや退職手続などで多忙となり、税務手続まで対応できないケースも少なくありません。
このような場合に活用されるのが「納税管理人」の制度です。出国前に税務署へ「所得税の納税管理人の届出」を提出することで、出国後も日本国内に居住する納税管理人を通じて、通常の確定申告と同様に翌年2月16日から3月15日までの期間に申告・納税を行うことが可能になります。
納税管理人は、日本国内に住所または居所を有する個人であれば選任でき、親族のほか、税理士などの専門家を指定することも一般的です。出国後も日本に不動産所得がある場合や、還付申告が見込まれる場合には、納税管理人を選任することが実務上強く推奨されます。
3. 出国時申告の対象となる所得の範囲
出国時申告では、出国日までに確定したすべての所得が申告対象となります。給与所得については、多くの場合、勤務先が出国時点で年末調整に準じた清算を行うことで対応されます。ただし、すべての控除や調整が反映されているとは限らないため、個別の確認が必要です。
事業所得や不動産所得がある場合には、出国日までの収入と必要経費を集計し、所得金額を算定する必要があります。また、日本国内に不動産を保有して賃貸している場合には、出国後も引き続き所得が発生する可能性があり、その場合は準確定申告で完結せず、翌年に納税管理人を通じた確定申告が必要となります。
さらに重要なのが「国外転出時課税(いわゆる出国税)」です。一定の要件を満たす居住者が、1億円以上の有価証券等を保有したまま国外へ転出する場合、実際には売却していなくても、含み益に対して課税が行われます。この制度は、株式、投資信託、デリバティブなどを対象とし、国際的な資産移転に対する課税逃れを防止する目的で導入されています。
4. 出国時申告と出国後の確定申告の関係
出国時申告と出国後の確定申告は、同じ年の所得を対象としながらも、申告のタイミングと方法が異なります。納税管理人を選任せずに出国した場合には、出国日までに準確定申告を行う必要があります。一方、出国前に納税管理人の届出を行った場合には、出国時点で申告を行わず、翌年に通常の確定申告としてまとめて申告することが可能です。
準確定申告を行った後で、出国後に日本国内で新たな所得が発生した場合には、その年分について改めて確定申告を行い、準確定申告の内容と合算して精算する必要があります。この点を誤解していると、申告漏れや二重申告といったリスクにつながるため注意が必要です。
5. 出国時申告における実務上の注意点
出国時申告では、所得控除の取り扱いにも注意が必要です。社会保険料控除や生命保険料控除などは、出国時までに実際に支払った金額のみが対象となります。一方で、基礎控除については暦年単位で適用されるため、年の途中で出国しても全額が適用されます。
また、外国人の場合には、出国に伴う在留資格上の手続も重要です。就労ビザで働いていた外国人が退職・出国する場合には、「所属機関等に関する届出」を入国管理局へ提出する必要があります。税務手続と入管手続は別制度ですが、実務上は同時並行で対応することが望まれます。
まとめ
出国時申告は、日本の税務制度の中でも特に誤解や手続漏れが生じやすい分野です。原則として出国前に申告が必要であること、納税管理人制度を活用することで実務負担を大きく軽減できること、出国税や出国後所得の有無によって対応が変わることなど、事前の整理が不可欠です。
海外赴任や帰任、移住を控えている場合には、早めに専門家へ相談し、自身の状況に応じた最適な申告ルートを選択することが、不要な税務リスクを回避する最善策といえるでしょう。
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