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デジタルノマドと所得税法172条の準確定申告―リモートワーク給与と出国時の税務

外国企業から給与を受けながら日本で働く場合の国内源泉所得、183日ルール、172条申告と日本を離れる際の手続を整理
2026年9月19日 by
デジタルノマドと所得税法172条の準確定申告―リモートワーク給与と出国時の税務
KAZUHISA MOCHIZUKI


はじめに

日本では、外国企業に勤務しながら日本でリモートワークを行う人などを対象として、在留資格「特定活動(デジタルノマド)」が設けられています。在留期間は6月で更新不可とされ、一定の対象国・地域の国籍等、申請時に年収1,000万円以上であること、一定の医療保険への加入などが要件とされています。また、日本の企業等との雇用契約に基づく就労活動は、この在留資格では認められていません。

しかし、「デジタルノマドとして6か月以内日本に滞在すること」と「日本で所得税がかからないこと」は別の問題です。

外国企業から海外口座へ給与を受け取っていても、日本国内で実際に勤務した部分は日本の国内源泉所得となる可能性があります。そのうえで租税条約による免税が適用されるかを確認し、日本課税が残るにもかかわらず日本で源泉徴収されていない場合に問題となるのが、所得税法172条の「準確定申告」です。


デジタルノマドの日本課税は、在留資格ではなく「居住者区分」と「勤務場所」から考える

まず、入管法上の在留資格と所得税法上の居住者・非居住者は区別する必要があります。

日本の所得税法では、日本国内に住所を有するか、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を「居住者」とし、それ以外の個人を「非居住者」としています。「住所」は生活の本拠を意味し、住居、職業、家族、資産その他の客観的事実から判断されます。したがって、デジタルノマドの在留資格を取得しているという理由だけで、税務上当然に非居住者となるわけではありません。

もっとも、日本のデジタルノマド在留資格は6月・更新不可であり、日本に生活の本拠を移さず一時的に滞在する通常のケースでは、所得税法上の非居住者として検討するケースが多いと考えられます。

非居住者となる場合、日本で課税されるのは原則として国内源泉所得です。給与については、給与をどこの銀行口座で受け取ったかではなく、どこで勤務を行ったかが重要です。非居住者が国内外の双方で勤務して給与を受ける場合、原則として日本国内で行った勤務に対応する部分が国内源泉所得となります。

例えば、米国企業に勤務する人が3か月間東京に滞在し、東京の滞在先から通常の業務をオンラインで行った場合、給与が米国企業から米国口座へ支払われているという理由だけで、日本課税の対象外になるわけではありません。まず日本勤務に対応する給与を国内源泉所得として検討する必要があります。国税庁も、国外で支払われる給与であっても、日本国内勤務に基因する給与は国内源泉所得となることを明らかにしています。


所得税法172条の準確定申告が問題となるのはどのような場合か

所得税法172条の準確定申告は、非居住者一般が使用する確定申告制度ではありません。

国税庁は、非居住者が日本国内に源泉のある給与所得、退職所得または人的役務の提供による所得を有しているものの、支払地が国外であるなどの理由により20.42%の源泉徴収を受けていない場合に、源泉徴収に代えて本人が申告納税するための申告書として172条の準確定申告書を設けています。

デジタルノマドの給与所得については、典型的には次の順序で検討します。

確認事項主な内容
① 居住者・非居住者日本に住所・居所があるか
② 国内源泉所得日本国内で実際に勤務した給与部分があるか
③ 源泉徴収日本で20.42%の源泉徴収を受けているか
④ 租税条約183日基準等による短期滞在者免税が適用されるか
⑤ 172条申告日本課税が残り、かつ源泉徴収されていないか

例えば、外国法人に勤務する非居住者が日本国内からリモートワークを行い、その給与を外国法人から国外口座で直接受け取っている場合を考えます。外国法人に日本国内の事務所等がなく、日本で源泉徴収が行われず、さらに租税条約による免税も適用されないのであれば、172条準確定申告が問題となります。

一方、国外払いであっても、給与等の支払者が日本国内に住所・居所または事務所等を有する場合には、その国内源泉所得は国内で支払われたものとみなされ、支払者側に源泉徴収義務が生じることがあります。したがって、「海外口座への給与=172条申告」と単純に判断することはできません。

また、フリーランス型のデジタルノマドはさらに注意が必要です。日本のデジタルノマド在留資格は、外国企業の従業員だけでなく、外国にいる顧客にICTを利用してサービスを提供する一定の活動も対象としていますが、税務上すべてのフリーランス収入が172条の「人的役務の提供による所得」に該当するわけではありません。事業所得・人的役務提供所得の区分、日本にPEがあるか、適用租税条約上どの条項が適用されるかを個別に確認する必要があります。日本国内に一定の事業拠点を有して事業を行う非居住者などについては、国税庁も172条専用申告書ではなく一般用申告書を使用する場合があるとしています。


183日以内なら日本で非課税、とは限らない

日本国内法上、日本勤務に対応する給与が国内源泉所得になったとしても、租税条約によって日本での課税が免除される場合があります。

多くの租税条約では、雇用所得について、勤務地国における滞在日数が所定の183日以内であること、給与が勤務地国の居住者でない雇用主から支払われること、給与が勤務地国にある雇用主のPE等によって負担されないことなどを条件として、短期滞在者免税を認めています。ただし、具体的な条件や183日を判定する期間は租税条約によって異なります。

ここで重要なのは、デジタルノマドの在留資格の**「6月」と租税条約の「183日」**は同じ基準ではないことです。6暦月と183日は必ずしも一致しません。また、条約上の183日判定では、一般に実際のphysical presenceを基礎とし、入国日・出国日も算入します。

さらに、183日以内であれば自動的に免税されるわけでもありません。雇用主や給与負担等の他の要件を満たす必要があります。

デジタルノマド在留資格の対象となる国・地域については、日本が査証免除措置を講じ、かつ租税条約締結国・地域等であることが要件の一つとされていますが、その在留資格を取得できること自体が、本人について租税条約上の短期滞在者免税が認められることを意味するものではありません。 本人がどの国の租税条約上の居住者であるかを含め、実際の条約適用を別途確認する必要があります。

したがって、172条申告の検討は、国内法上の国内源泉所得判定だけで完結せず、租税条約によって最終的に日本の課税権が残るかまで確認した後に行う必要があります。




日本を離れるとき―172条申告の期限と、日本から海外へ出るケース

デジタルノマドと172条の関係で特に注意したいのが、日本を離れるタイミングです。

172条の準確定申告は、原則として所得が生じた年の翌年3月15日までに申告・納税します。ただし、その日より前に日本国内に居所を有しないこととなる場合には、その居所を有しないこととなる日までに申告・納税する必要があります。国税庁の172条準確定申告書の説明でも、この期限が明記されています。

国税庁の確定申告手引きも、一定の非居住者が日本での勤務または人的役務の報酬について源泉徴収を受けていない場合、納税管理人を届け出ずに税法上「出国」するときは、出国時までに準確定申告書を提出し、納税する必要があると整理しています。

したがって、例えば外国企業から国外払いの給与を受けながら日本でリモートワークをしていた非居住者について、租税条約による免税がなく172条申告が必要となる場合、「翌年3月15日に海外から申告すればよい」とは限りません。 日本を離れる前に、納税管理人の選任を含めて申告期限を確認する必要があります。

一方、これとは逆に、日本の居住者が日本を離れて海外でデジタルノマドとして働き始める場合には、172条ではなく、居住者から非居住者になる際の出国時確定申告が問題となります。日本国内法には「海外に183日以上いれば非居住者」という一般的な基準はなく、生活の本拠等から居住者Statusを判定します。確定申告義務がある人が納税管理人を選任しないまま非居住者となる場合には、原則として出国時までに確定申告、いわゆる準確定申告を行う必要があります。

出国後も日本国内に不動産所得等が残る場合には、納税管理人を選任してその後の日本の確定申告を継続する必要がある場合があります。また、一定の居住期間要件を満たし、1億円以上の対象有価証券等を保有して国外転出する場合には、通常の出国時申告とは別に国外転出時課税についても確認が必要です。


まとめ

デジタルノマドとして日本に短期間滞在する場合でも、「6か月以内だから日本で所得税はかからない」「183日以内だから日本で申告は必要ない」と一律に考えることはできません。

外国企業に勤務する非居住者が日本国内でリモートワークを行えば、日本勤務に対応する給与は国内源泉所得となる可能性があります。その上で租税条約による短期滞在者免税を確認し、日本課税が残るにもかかわらず国外払い等によって源泉徴収を受けていない場合には、所得税法172条の準確定申告が問題となります。

さらに、日本国内に居所を有する非居住者が申告期限前に日本を離れる場合には、172条申告の期限が日本を離れる時点まで前倒しされることがあります。このため、デジタルノマドの日本税務では、入国時の居住者Status、日本滞在中の勤務・所得、日本出国時の申告手続までを一連の流れとして確認することが重要です。

一方、日本の居住者が海外へ移住してデジタルノマドとなる場合には、172条ではなく、居住者から非居住者への変更に伴う出国時確定申告や納税管理人の選任が中心となります。

Mochizuki & Associatesでは、デジタルノマド、海外勤務者その他のクロスボーダー個人について、居住者・非居住者判定、租税条約の適用、所得税法172条の準確定申告、出国時確定申告および納税管理人に関する日本の税務手続をサポートしています。


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