はじめに
日本企業が中国ビジネスを行う際、中国増値税における「免税売上に対応する仕入税額の転出」や「輸出退税率差によるコスト化」を、日本消費税の制度と比較して理解することは非常に重要です。
結論からいえば、日本消費税法にも、中国増値税における免税売上対応の仕入増値税が費用化される現象と、経済実質上類似する場面が存在します。ただし、日本と中国では、用語、制度構造、輸出取引の取扱いが大きく異なるため、名称だけで対応関係を判断すると誤解が生じます。
1. 日本消費税における「課税」「非課税」「免税」の基本構造
日本消費税では、国内における資産の譲渡等について、原則として消費税が課されます。これが「課税取引」です。
これに対し、土地の譲渡、有価証券の譲渡、住宅の貸付け、社会保険医療、一定の教育サービスなど、消費税を課すことが政策的・制度的に適当でない取引については「非課税取引」とされています。
また、輸出取引や国際輸送などについては「免税取引」とされます。ここでいう日本消費税の「免税」は、売上に消費税を課さないだけでなく、その売上に対応する仕入税額について控除又は還付を認める制度です。したがって、日本の輸出免税は、経済実質としてはゼロ税率に近い制度といえます。
この点が、中国増値税との比較で最も重要です。中国の「免税」は、日本の「非課税」に近く、中国の「零税率」は、日本の「輸出免税」に近い関係にあります。
2. 非課税売上に対応する仕入税額の控除制限
日本消費税では、事業者が課税売上と非課税売上の双方を行う場合、すべての仕入税額を控除できるわけではありません。
仕入税額控除の計算においては、課税売上に対応する仕入税額は控除できますが、非課税売上にのみ対応する仕入税額は控除できません。また、課税売上と非課税売上の双方に共通する仕入については、課税売上割合に基づき控除可能額を按分する必要があります。
この場合、日本消費税では、主に「個別対応方式」と「一括比例配分方式」という二つの計算方法が用意されています。
個別対応方式では、課税仕入れ等に係る消費税額を、課税売上にのみ対応するもの、非課税売上にのみ対応するもの、課税売上と非課税売上に共通して対応するものに区分します。その上で、課税売上対応分は全額控除し、非課税売上対応分は控除せず、共通対応分については課税売上割合を乗じて控除税額を計算します。
一方、一括比例配分方式では、課税仕入れ等に係る消費税額全体に課税売上割合を乗じて、控除対象となる仕入税額を計算します。この方式は、個々の仕入れについて課税売上対応・非課税売上対応・共通対応を区分しない、又は区分していても簡便的に全体按分を行う方法です。もっとも、一括比例配分方式を選択した場合には、原則として2年間以上継続して適用した後でなければ個別対応方式へ変更できない点に注意が必要です。
このように、日本消費税では、仕入税額控除の可否は、単に仕入れに消費税が含まれているかどうかだけで決まるものではありません。売上が課税売上であるか、非課税売上であるか、また当該仕入れがどの売上区分に対応するかによって、控除可能額が決定されます。
この結果、非課税売上に対応する仕入税額は控除されず、会計上・経済上は企業のコストとなります。この点は、中国増値税において免税売上に対応する仕入増値税を進項税額から転出し、費用又は原価へ振り替える処理と、経済実質として類似しています。
3. 免税事業者等からの仕入れと控除制限
日本消費税には、中国増値税にはあまり見られない特徴として、「免税事業者」制度があります。基準期間の課税売上高が一定以下である小規模事業者等は、消費税の納税義務が免除される場合があります。
インボイス制度導入後、適格請求書発行事業者でない免税事業者等からの仕入れについては、原則として仕入税額控除を行うことができません。ただし、制度移行の影響を緩和するため、一定期間は仕入税額相当額の一部を控除できる経過措置が設けられています。
この点は、非課税売上対応の仕入税額控除制限とは異なります。非課税売上の場合は「売上の性質」により仕入税額控除が制限されるのに対し、免税事業者等からの仕入れの場合は「仕入先が適格請求書を発行できないこと」により控除が制限されるものです。
もっとも、いずれの場合も、控除できない仕入税額相当額が企業のコストとなる点では共通しています。
4. 中国増値税との比較
中国増値税では、「課税」「免税」「零税率」「不征税」といった分類が用いられます。日本語の感覚では、中国の「免税」は日本の「免税」と同じように見えますが、実際には異なります。
中国の免税は、売上に増値税を課さない一方で、その売上に対応する進項税額の控除を認めない制度です。したがって、日本消費税でいえば、輸出免税ではなく、むしろ非課税取引に近い構造です。
一方、中国の零税率は、売上に対する税負担をゼロにしつつ、対応する進項税額について控除又は還付を認める制度です。この点で、日本の輸出免税に近い制度といえます。
ただし、中国では、輸出取引であっても退税率が法定税率より低い場合があります。この場合、征税率と退税率の差額は控除又は還付されず、輸出企業のコストとなります。日本の輸出免税では、原則として対応する仕入税額は全額控除又は還付されるため、この点は日本制度との大きな違いです。
5. おわりに
日本消費税法にも、中国増値税における免税売上対応の進項税額転出と経済実質上類似する場面があります。代表的なのは、非課税売上に対応する仕入税額が控除できず、企業のコストとなるケースです。
もっとも、日本の「免税」は主として輸出免税を意味し、仕入税額控除又は還付を認める制度であるため、中国の「免税」と同じ意味ではありません。中国の免税は日本の非課税に近く、中国の零税率が日本の輸出免税に近いという整理が実務上は有用です。
国際取引において消費税・増値税を比較する際には、用語ではなく、売上に税が課されるか、対応する仕入税額が控除又は還付されるか、控除されない税額がコスト化するか、という経済実質に着目することが重要です。
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