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非居住者企業に係る税務ポイント

はじめに

国際取引の増加に伴い、日本に拠点を持たない非居住者企業であっても、日本での事業活動や役務提供の形態によっては法人税・消費税・源泉所得税など複数の税務義務が発生する。特に近年は、PE(恒久的施設)の概念の拡張、外国企業に対する消費税課税の厳格化、移転価格税制や電子帳簿保存法への対応が注目されている。非居住者企業の税務リスクは、契約書の内容や人員の派遣、役務提供の実態に大きく依存するため、適切な初期設計と継続的なモニタリングが不可欠である。本稿では、非居住者企業が日本で事業を行う際に直面しやすい主要な税務論点を包括的に整理する。



1. 日本における課税関係の基本枠組み

非居住者企業に対する日本の法人税課税は、主としてPEの有無により区分される。PEが存在しない場合、日本国内源泉所得に限定した課税が行われる。一方、PEが存在する場合には、当該PEに帰属する所得について法人税および地方法人課税が課される。日本のPEの分類は、固定的施設PE、建設PE、代理人PEの三類型である。固定的施設PEはオフィス、工場、倉庫など物理的拠点を指す。建設PEは1年以上の建設・設置・組立プロジェクトに該当する場合に成立する。代理人PEは、企業のために継続して契約締結権限を行使する者が日本に存在する場合に認定される。これらは租税条約により修正されるため、該当国の条約規定の確認が必須である。


2. PEリスクが高まる典型的ケース

非居住者企業のPEリスクは、形式よりも実態に依拠して判定される。とりわけ日本への出向者派遣、プロジェクトベースの長期滞在、技術サービス提供における常駐業務などがリスクを高める。出向者が日本で意思決定に関与したり、顧客との契約交渉を主導したりする場合、代理人PEが成立しうる。また、プロジェクト期間の分割や複数法人への契約分散による建設PE回避は、税務調査で否認される典型例である。固定的施設PEについては、借り上げオフィスの専用利用、倉庫を自社商品の保管や販売準備に利用している場合など、実務では判断が難しいケースが多い。


3. 非居住者企業と源泉徴収税務

非居住者への支払に対しては、国内源泉所得に該当する場合に源泉徴収が義務付けられている。代表的なものは使用料(ロイヤルティ)、役務提供、利子、配当などである。役務提供については、国内で提供されたサービスは源泉徴収の対象となるが、国外で完結するサービスは対象外である。もっとも、国内外にまたがる役務提供は按分が必要であり、契約書に作業場所や範囲が明確でない場合、全額が課税対象とされるリスクがある。租税条約により税率軽減や免除が適用されるケースも多いため、支払時点での条約適用届出書の整備が必須である。


4. 電子サービス・デジタル取引と消費税

非居住者企業が日本の消費者または事業者に対して電子サービスを提供する場合、消費税の申告義務が生じる。B2C電子サービスは課税事業者登録が必須であり、B2B電子サービスはリバースチャージ方式が適用される。SaaS、クラウドサービス、オンライン広告配信、電子コンテンツ提供などが典型例である。特に、電子サービスが「電気通信利用役務の提供」に該当するか否かの判定が重要である。非居住者であっても、国内課税売上が年間1,000万円を超える場合は原則的に課税事業者となるため、日本での売上規模が大きい海外企業は要注意である。


5. インボイス制度と非居住者の登録義務

2023年に開始したインボイス制度により、国内事業者は適格請求書発行事業者の登録が求められる。非居住者企業であっても、国内課税売上を有する場合には登録が必要である。海外企業の中には「日本に拠点がないため登録不要」と誤認しているケースがあるが、国内での電子サービス提供やイベント参加による課税売上がある場合、登録しなければ取引先が仕入税額控除を受けられず取引上の不利益が生じる。また、登録した場合には日本での消費税申告・電子帳簿保存法対応といった追加義務も発生する。


6. 非居住者と移転価格税制・恒常的取引のリスク

非居住者企業が日本子会社を持つ場合、移転価格税制に基づくグループ内取引の独立企業原則への適合性が求められる。特に、サービス提供、ライセンス料、コストシェアリング、人的派遣などは価格付けの妥当性が調査で重点確認される。非居住者が日本に法人を持たない場合でも、海外本社が日本顧客に直接販売し、日本拠点が実質的に支援業務を行っている場合、仮想PEの問題や移転価格上の利益配分問題が発生しうる。実務上は、業務フローの設計、役割分担の文書化、契約書の整備が極めて重要である。


7. 国内支店設置と支店課税のポイント

非居住者企業が日本に支店を設置する場合、PEとして扱われるため、支店に帰属する所得について申告義務が生じる。支店と本店の取引は原則として内部取引として扱われるが、租税条約適用時には「PE帰属原則」に基づき独立企業原則による利益配分が求められる。支店は法人格を持たないため、株主関連取引は発生しない一方で、内部貸付金利や内部役務提供などについて税務当局との見解が分かれるケースもある。支店では帳簿管理、移転価格的概念の適用、源泉所得税や消費税の取扱いが複雑化するため、法人設立(子会社設立)とどちらが適切かの事前検討が欠かせない。


8. 非居住者の税務調査対応

非居住者に対しても日本の税務調査は実施される。特にPE認定、源泉徴収漏れ、役務提供の課税範囲、消費税の電子サービス判定などが調査対象となりやすい。調査においては契約書、業務内容、日々の業務記録、出向者の権限、取引証憑の整備状況が重要な判断材料となる。租税条約を根拠に主張する場合、条約の解釈と国内法の整合性を文書化して提示することが必要である。非居住者企業は国内文書の保存義務や電子帳簿保存法の適用範囲を誤解しがちであり、日常的な文書化の水準が調査リスクを大きく左右する。


9. まとめ

非居住者企業の日本税務は、PEの有無や役務提供の場所と内容、電子サービスの提供形態、グループ内取引の構造など、多くの要素が複雑に絡み合う領域である。初期構築段階での税務リスク評価、契約と実態の整合性確保、インボイス制度や電子帳簿保存法への対応など、実務負荷は国内企業より高くなる場合も多い。海外企業が日本市場で安定的にビジネスを継続するためには、国際税務の専門家による継続的なレビューとガバナンス体制の構築が不可欠である。

Liying Huang 2025年12月11日
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