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租税条約とは何か―国内税法との関係と日本の租税条約ネットワーク【国際税務の基礎①】

二重課税の排除、課税権の配分、183日ルール、PE、源泉税からMLIまで、国際税務の基本構造を理解する
2026年9月19日 by
租税条約とは何か―国内税法との関係と日本の租税条約ネットワーク【国際税務の基礎①】
KAZUHISA MOCHIZUKI


租税条約とは何か

租税条約は、二つの国・地域の間で、どちらの国がどの所得に対してどの範囲まで課税できるかを調整する国際的なルールです。

国境を越えて所得を得る場合、同じ所得について所得の発生国である「源泉地国」と、所得を得た者が居住する「居住地国」の双方が課税を主張することがあります。租税条約は、このような国際的二重課税を調整するとともに、課税関係を明確にし、脱税・租税回避を防止することを主な目的としています。

財務省も、租税条約の目的を、課税関係の安定、二重課税の除去、脱税・租税回避への対応を通じた健全な投資・経済交流の促進と説明しています。日本の租税条約は、基本的にはOECDモデル租税条約を基礎としています。


国内税法と租税条約はどちらを先に見るのか

実務では、まず日本の所得税法・法人税法等の国内法によって課税関係を確認し、その上で適用可能な租税条約が国内法による課税を制限・調整するかを検討するのが基本的な考え方です。

例えば、日本国内で勤務した非居住者の給与が国内法上の国内源泉所得に該当するとしても、適用される租税条約の短期滞在者免税の要件を満たせば、日本での課税が免除されることがあります。

逆に、「租税条約にこの所得について課税できると書いてあるから、必ずその国で課税される」という意味でもありません。租税条約は課税権を配分・制限するルールであり、実際の課税には各国の国内法も確認する必要があります。

したがって、実務では**「国内法上どう課税されるか」→「条約がその課税をどこまで認め、または制限しているか」**という順序で確認することが重要です。


租税条約には何が書かれているのか

現在の一般的な租税条約には、居住者の定義、双方の国の居住者となった場合の振分け、恒久的施設(PE)、事業利得、不動産所得、配当、利子、使用料、株式その他の資産の譲渡所得、給与、役員報酬、年金などについて、どちらの国が課税できるかが規定されています。

また、居住地国で外国税額控除等により二重課税を排除する方法、税務当局間の相互協議(MAP)、情報交換、徴収共助、租税条約の濫用を防止する規定なども重要な部分です。

例えば、事業所得では「PEなければ課税なし」という考え方が基本となり、配当・利子・使用料については源泉地国で課税できる税率に上限を設けたり、一定の場合には源泉地国課税を免除したりします。

給与所得では、勤務を実際に行った国に原則として課税権を認めながら、183日基準等の要件を満たす短期滞在者について例外を設ける条約が一般的です。


同じ「租税条約」でも内容は国によって異なる

租税条約はOECDモデルを基本としていても、すべて同じ内容ではありません。

例えば、日本・パキスタン租税条約では「技術上の役務に対する料金」について源泉地国課税を認める特別な規定が設けられています。これは、一般的なOECDモデルに沿った条約では事業所得としてPEの有無が中心になるケースとは異なる特徴です。

また、匿名組合契約から生ずる所得について、日本の源泉地国課税を確保する特別規定を設ける条約や議定書もあります。日本・フランス間の改正議定書や日本・パキスタン条約などがその例です。

したがって、「他国との条約ではこうだった」という理解をそのまま別の国との取引に適用することはできません。


日本の租税条約ネットワークには少し特殊なケースもある

2026年9月1日現在、日本の租税条約等のネットワークは91条約等、157か国・地域に適用されています。このうち、二重課税の除去等を主目的とする租税条約は78本で81か国・地域に適用されています。

条約数と対象国数が一致しない理由の一つは、旧ソ連や旧チェコスロバキアとの条約が、その後独立した複数の国に承継されているためです。例えば、旧日ソ租税条約は長年、ウクライナ、アルメニア、キルギス等との関係でも適用されてきましたが、近年はこれらの国との新条約への切替えが進んでいます。

台湾も特殊です。日本と台湾との間には国家間の租税条約ではなく、日本台湾交流協会と台湾日本関係協会との間の民間租税取決めと、その内容を日本国内で実施する法令を組み合わせることによって、全体として租税条約に相当する枠組みが構築されています。


条約本文だけを読めばよいとは限らない

実際の租税条約を検討するときには、条約本文だけでは十分でない場合があります。

条約にはProtocol(議定書)が付されていることがあり、さらにExchange of Notes(交換公文)、合意議事録、権限ある当局間の合意などが存在する場合があります。

また、現在ではBEPS防止措置実施条約、いわゆるMLIによって、既存の二国間租税条約が実質的に修正されている場合があります。例えば、日本・英国租税条約についても、原条約および改正議定書に加えてMLIの適用関係を確認する必要があります。

財務省はMLI等を反映した「統合条文」を公表している場合がありますが、この統合条文は理解を容易にするため便宜的に作成されたものであり、それ自体に法的効力はないと明記しています。最終的には原条約、議定書、MLIその他の法的文書を確認する必要があります。


租税条約を確認するときの実務上のポイント

租税条約の適用を検討する際には、単に源泉税率表を見るだけでは不十分です。まずどの国の居住者であるか、どの所得条項に該当するか、PEが存在するか、所得の受益者が誰か、条約特典を受けるためのLOBやPPT等の濫用防止要件を満たすかを確認する必要があります。

さらに、原条約の締結後に改正議定書、交換公文、MLI等による変更が行われていないかを確認することが重要です。

租税条約は一つのPDFだけで完結するとは限らず、「原条約+議定書+交換公文+MLI+その後の当局間合意」まで含めて現在適用されているルールを確認することが、国際税務実務では重要です。

※本稿は租税条約の一般的な構造について説明するものです。実際の適用にあたっては、対象国、所得の種類、居住者Status、取引関係および対象年度について、その時点で効力を有する条約その他の関連文書を個別に確認する必要があります。


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