Protocolとは何か
租税条約を確認していると、条約本文とは別に「Protocol(議定書)」という文書が存在することがあります。
「議定書」という名称から、条約本文より重要性の低い補足資料のように見えることがありますが、これは必ずしも正しくありません。
条約に付されたProtocolについて、財務省は、条約の不可分の一部を成す議定書の規定は、国際法上、条約本文の規定と何ら変わらない効力を有すると明確に説明しています。
したがって、条約本文だけを読んでProtocolを確認しないと、実際の条約上のルールを見落とす可能性があります。
Protocolには二つの使われ方がある
租税条約実務で「Protocol」という言葉が使われる場面は、大きく二つあります。
一つは、新しい租税条約を締結する際に条約と同時に作成され、条約本文の特定の規定を補足するProtocolです。もう一つは、すでに存在する租税条約の内容を後から変更するためのAmending Protocol、すなわち「改正議定書」です。
前者では、条約本文に収まりにくい詳細な定義、特定の国内制度についての扱い、仲裁手続の細目、特定所得についての例外などが規定されることがあります。
後者では、既存条約の特定の条文を削除・置換・追加することによって、条約そのものを改正します。
したがって、Protocolは「説明書」というより、条約ルールそのものの一部、または既存条約を変更する法的文書と理解する方が正確です。
最近の日本の条約でもProtocolは重要
例えば、日本とアルメニアとの新租税条約に付されたProtocolでは、恒久的施設(PE)の例示に加え、アルメニアが将来ほかの国との条約でより低い利子税率または免税を認めた場合に、日本からの要請に基づいて再交渉を開始する規定が設けられています。
さらに、相互協議における仲裁手続の詳細もProtocolで定められています。
これは、Protocolが単に条約本文を説明しているのではなく、将来の条約関係や仲裁手続そのものに法的効果を持つことを示す分かりやすい例です。
日本独自の論点として匿名組合がProtocolに登場することがある
日本が締結する租税条約では、日本独自の投資形態である匿名組合についてProtocolで特別な規定を置くことがあります。
例えば、近年の日本・ウクライナ租税条約のProtocolでは、一定の匿名組合契約等による所得について、日本側で支払者の課税所得から控除される場合には、日本が国内法に従って課税できることが定められています。
同様の考え方は日本・フランス間の改正議定書や日本・パキスタン条約でも確認することができます。
このように、モデル条約だけを読んでも分からない日本固有の論点がProtocolに置かれている場合があります。
Amending Protocolは条約を部分的に作り替える
既存条約を改正するProtocolの代表例が、2013年に署名され2019年に発効した日米租税条約改正議定書です。
この改正では、一定の配当に対する免税要件が緩和され、利子について原則として源泉地国免税となったほか、相互協議手続に仲裁制度が導入され、徴収共助の対象も拡大されました。
日英租税条約についても2013年の改正議定書によって、一定の親子会社間配当や利子の課税、PE帰属所得、仲裁、徴収共助などが大きく変更されています。
したがって、古い条約本文だけを検索して読むと、現在の課税関係とは異なる結論になる可能性があります。
日仏改正議定書には社会保障との接点もある
租税条約のProtocolには、純粋な所得分類や源泉税率以外の興味深い規定が含まれることもあります。
日本・フランス租税条約の2007年改正議定書では、日仏社会保障協定との関係から、相手国の社会保障制度に支払われる一定の社会保険料について就労地国で所得控除を認める措置が導入されました。併せて、匿名組合所得について日本の源泉地国課税を確保する規定も設けられています。
租税条約と社会保障協定が実務上交差する珍しい例の一つといえます。
ProtocolとMLIは同じものではない
BEPS防止措置実施条約(MLI)も既存の租税条約を変更する効果を持つため、Amending Protocolと似て見えますが、仕組みは異なります。
Amending Protocolは通常、日本と特定の相手国との間で締結し、その二国間条約を個別に改正するものです。
これに対してMLIは多数国間条約であり、日本と相手国双方が対象条約として選択し、相互の留保・通告が一致する範囲で既存の二国間条約を修正します。
したがって現在の租税条約を読む際には、原条約→改正議定書→MLIという複数の層を確認しなければならない場合があります。
統合条文は便利だが、それ自体が条約ではない
財務省は、改正議定書等を原条約に織り込んだ統合条文を掲載していることがあります。
実務では非常に便利ですが、財務省自身が、統合条文は適用関係の把握を容易にするため便宜的に作成したものであり、法的効力を有しないと明記しています。
したがって、重要案件では統合条文だけでなく、原条約とProtocolの正文を確認することが必要です。
まとめ
Protocolは、条約本文の「脚注」や単なる解説ではありません。条約と同時に締結されるProtocolは条約の不可分の一部として重要な法的効果を持ち、Amending Protocolは既存の条約そのものを変更します。
特に日本の租税条約では、匿名組合、仲裁手続、特定の国内制度、将来の再交渉義務など、実務上重要な事項がProtocolに記載されていることがあります。
租税条約を確認するときには、TreatyだけでなくProtocolまでを一つの法的パッケージとして読むことが重要です。
※本稿はProtocolの一般的な機能を説明するものです。個々のProtocolの法的効果については、対象となる条約およびProtocolの具体的な文言を確認する必要があります。
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