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厚生年金の脱退一時金と所得税還付 ― 出国前に確認すべき納税管理人と出国時確定申告

日本を離れる外国人のための脱退一時金、退職所得の選択課税、出国時確定申告を一連の手続として解説
2026年9月25日 by
厚生年金の脱退一時金と所得税還付 ― 出国前に確認すべき納税管理人と出国時確定申告
KAZUHISA MOCHIZUKI


はじめに

日本で勤務していた外国人が日本を離れる場合、一定の要件を満たせば、厚生年金保険の「脱退一時金」を請求できることがあります。また、脱退一時金の支給時に源泉徴収された日本の所得税について、「退職所得の選択課税」を利用することにより、その全部又は一部の還付を受けられる場合があります。

この二つは、それぞれ日本年金機構が運用する社会保険制度上の給付制度と、国税庁が所管する所得税上の課税・還付制度であり、全く別の制度です。しかし、厚生年金の脱退一時金が所得税法上「退職手当等」として取り扱われることから、両制度は税務上接点を持ちます。さらに、日本を離れる際の確定申告や納税管理人の選任とも密接に関係します。


厚生年金の脱退一時金とは

厚生年金保険の脱退一時金は、日本国籍を有しない人が日本の公的年金制度から離れ、日本国内に住所を有しなくなった場合に、一定の要件を満たすことで請求できる一時金です。

主な要件として、日本国籍を有していないこと、公的年金制度の被保険者でないこと、厚生年金保険等の加入期間が6か月以上あること、老齢年金の受給資格期間である10年を満たしていないこと、障害年金等を受ける権利を有したことがないこと、日本国内に住所を有していないこと、さらに原則として資格喪失後又は日本国内に住所を有しなくなった後の所定期間内に請求することが求められます。

制度上の基準は「物理的に日本を出国したか」だけではなく、日本国内に住所を有しなくなったかという点にあります。日本年金機構も、日本国内から請求書を発送する場合であっても、市区町村に転出届を提出し、請求書が転出予定日以後に日本年金機構へ到達するよう送付することを認めています。


現行制度では支給額計算の上限は原則5年

2021年4月以後の一定の厚生年金加入期間について、現行制度では、脱退一時金の支給額計算に用いる被保険者期間の上限は60か月、すなわち5年です。

ただし、2025年に成立した年金制度改正法では、脱退一時金について、支給上限を現行の5年から8年へ引き上げることや、再入国許可を受けて出国した外国人について一定期間は脱退一時金を支給しない取扱いへの見直しが予定されています。これらは現行制度とは異なり、今後の施行を前提とする改正事項です。

また、脱退一時金を受給すると、原則として、その請求以前の日本の年金加入期間は将来の日本年金の受給資格期間として利用できなくなります。社会保障協定による加入期間の通算や、将来日本の老齢年金を受給する可能性がある場合には、請求前に確認することが重要です。


脱退一時金と退職所得の選択課税は別の制度

脱退一時金は、日本年金機構に対して請求する年金制度上の給付です。

これに対して「退職所得の選択課税」は、非居住者が日本の国内源泉所得に該当する退職手当等を受け取った場合について設けられた所得税上の課税制度です。

したがって、脱退一時金を受給することと、退職所得の選択課税を利用することは自動的に連動するわけではありません。脱退一時金の支給後、実際の支給額及び源泉徴収税額を確認したうえで、別途、税務署に対して選択課税の申告を行う必要があります。


厚生年金の脱退一時金には原則20.42%が源泉徴収される

所得税法上、厚生年金保険法等に基づいて支給される一時金は、一定の場合「退職手当等」とみなされます。

非居住者が厚生年金保険の脱退一時金を受け取る場合、日本年金機構は原則として支給額の20.42%を所得税及び復興特別所得税として源泉徴収します。日本年金機構自身も、脱退一時金の案内においてこの取扱いを明示しています。

この20.42%は必ずしも最終的な日本の所得税額ではありません。退職所得の選択課税を利用することにより、居住者が退職金を受け取った場合に準じた方法で税額を再計算し、源泉徴収された税額の全部又は一部について還付を受けられる場合があります。


退職所得の選択課税とは

非居住者が、居住者であった期間に行った勤務等に基因して支払われる退職手当等を受ける場合には、原則として支給額の20.42%で源泉分離課税されます。

これに対して所得税法第171条は、その年中に受ける対象となる退職手当等の総額を、居住者として受け取ったものとみなして税額を計算することを選択できる制度を設けています。これが「退職所得の選択課税」です。

選択課税を利用する場合、退職所得控除等の退職所得計算を用いて税額を再計算します。一方で、通常の所得税確定申告で用いる基礎控除、扶養控除、医療費控除等の一般的な所得控除がそのまま適用される制度ではなく、国税庁の記載例でも「所得控除の適用はありません」とされています。

そのため、「脱退一時金から20.42%源泉徴収された税額が必ず全額還付される」という制度ではありません。実際の還付額は、脱退一時金の金額、加入・勤務期間、退職所得控除、その年中に受けた他の退職手当等、短期退職手当等に関する特則の適用の有無等により異なります。


二つの制度が接続する理由

厚生年金の脱退一時金制度と退職所得の選択課税制度は法的には別の制度ですが、脱退一時金が所得税法上「退職手当等」として取り扱われることによって接続します。

実務上は、概ね、日本国内に住所を有しなくなる → 厚生年金脱退一時金を請求 → 日本年金機構から支給 → 20.42%源泉徴収 → 退職所得の選択課税を検討 → 税務署へ申告 → 還付という流れになります。

国税庁は、厚生年金脱退一時金を念頭に置いた退職所得の選択課税の申告書記載例を公表しており、日本年金機構も、非居住者が選択課税による還付を受けることができる旨を案内しています。


出国時の確定申告との関係

日本を離れる年に確定申告義務がある場合には、脱退一時金の還付手続とは別に、出国年の通常の所得税申告を検討する必要があります。

納税管理人を選任せずに所得税法上の「出国」をする場合には、一定の場合、出国時までにその年の所得について確定申告、いわゆる準確定申告を行う必要があります。一方、出国前に納税管理人を選任しておけば、原則として翌年の通常の確定申告期限に、納税管理人を通じて申告することができます。

重要なのは、出国年の通常の確定申告と、脱退一時金について行う退職所得の選択課税の申告は別の手続であるという点です。

したがって、出国前にその年の所得税について申告を済ませていたとしても、その後に厚生年金脱退一時金を受け取り、選択課税を利用する場合には、別途「退職所得の選択課税の申告書」を提出することになります。


出国前に納税管理人を選任するメリット

非居住者となった後も、日本で確定申告、税金の納付、還付金の受領その他の国税手続を行う必要がある場合には、納税管理人を定める必要があります。

そのため、出国前に納税管理人を選任しておけば、出国年の確定申告を翌年に行う場合だけでなく、その後に受け取る厚生年金脱退一時金について退職所得の選択課税による還付申告を行う際にも、同じ納税管理人を通じて継続的に手続を行うことができます。

一方、出国前にその年の所得税申告を完了したため当初は納税管理人を置かなかった場合でも、その後、脱退一時金について還付申告を行う段階で納税管理人を選任することが可能です。日本年金機構も、帰国前に納税管理人の届出をしていなかった場合には、還付申告時に届出書を併せて提出する取扱いを案内しています。


租税条約についても確認が必要な場合

厚生年金の脱退一時金は、国内法上、原則として居住者であった期間に行った勤務等に基因する退職手当等として国内源泉所得に該当します。また、租税条約上、国税庁は一般の退職一時金と同様に給与所得条項を適用すると整理しています。

一般的な日本国内勤務を基礎とする脱退一時金では、日本に課税権が認められるケースが通常です。一方、厚生年金加入期間に実際の国外勤務期間が含まれる場合には、国内法上の国内源泉所得の判定と、租税条約上の給与所得条項による役務提供地の判定が必ずしも同一にならないことがあります。そのため、国外勤務期間を含む特殊なケースや、適用される租税条約に独自の規定がある場合には、日本の課税権が制限される可能性について個別に検討する必要があります。

なお、租税条約による課税免除・軽減を理由とする還付と、所得税法上の「退職所得の選択課税」による還付は、法的根拠も手続も異なる別制度です。


出国前から一連の手続を整理する

日本を離れる外国人にとって、脱退一時金のみを単独で検討すると、出国後に改めて日本の税務手続が必要になることがあります。

実務上は、出国前に、居住者・非居住者の判定、出国年の所得税申告義務、納税管理人の選任要否、厚生年金脱退一時金の受給可能性、その後の退職所得の選択課税による還付までを一連の手続として確認しておくことが効率的です。


※本記事は、2026年9月現在施行されている日本の税法、年金制度及び公表されている行政上の取扱いに基づく一般的な情報提供を目的としています。脱退一時金については、2025年成立の年金制度改正法により、支給上限の8年への引上げその他の制度変更が今後予定されています。また、実際の税務上の取扱いは、居住者・非居住者区分、勤務場所、加入期間、退職手当等の金額、適用される租税条約その他の個別事情によって異なる場合があります。具体的な申請又は申告に際しては、その時点で適用される最新の法令及び制度を確認する必要があります。


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KAZUHISA MOCHIZUKI 2026年9月25日
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